大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)2943号 判決

被告人 関平太郎

〔抄 録〕

原判決が、その理由において、罪となるべき事実として、「被告人はスタンダード・ヴァキューム・オイル・カンパニー東京営業所の会計課員として販売代金の集金、帳簿整理等の業務に従事中、昭和二十八年九月二十九日、日本国有鉄道経理局からオイル代金として日本国有鉄道振出、日本銀行宛、額面八十六万七千五百五十一円の小切手一通を受領し、業務上保管中即日、東京都千代田区大手町所在日本銀行代理店株式会社安田銀行本店において、自己の用途に費消するため、擅に小切手金の支払をうけ、以て右小切手一通を横領したものである。」との事実を認定判示していることは、所論のとおりである。しかして、所論は、被告人は、原判示スタンダード・ヴァキューム・オイル・カンパニー東京営業所の会計課員として、日本国有鉄道経理局より、オイル代金として原判示小切手を受領する権限があり、従つて、同小切手の支払を受けることは、被告人がその職務に基ずく当然の権利であるから、該小切手の支払を受けた事実を目して横領と認定した原判決は、法令の適用に違反するか、若しくは事実を誤認したものである旨主張するにより、案ずるに、なるほど、所論の挙げている証拠によれば、被告人は、当時原判示会社東京営業所会計課員として同会社のために、原判示小切手を受領する権限も、該小切手の支払を受ける権限も共に有していたものと認められるのであるから、被告人が原判示小切手金の支払を受けた所為をとらえて業務上横領と認定することは、一見妥当でないように考えられない訳ではないが、しかし、被告人が、前示小切手を受領し、又は該小切手金の支払を受ける権限は、どこまでも、前記会社の会計課員として、同会社のためにする場合に限られるものであつて、被告人個人の用途に費消する目的をもつて右小切手を受領し、又は該小切手金の支払を受ける権限を有していたものでないことは、原判決援用の証拠に照らして明らかであるところ、原判決挙示の証拠に徴するときは、被告人が原判示株式会社安田銀行本店において原判示小切手の支払を受けた場合においては、当初より前示会社のためにする意思は全然なく、勝手に自己の用途に費消する目的でその支払を受けたものであることが認めえられるのであるから、右小切手金の支払を受けた行為自体が、既に自己の職務権限に基ずいたものではなくて、不正領得の意思の発現に外ならないものというべく、従つて、原判決が、勝手に右小切手金の支払を受けた被告人の所為を目して業務上横領罪を構成するものと認定したからといつて、必ずしも、所論のように、法令の適用を誤り、又は事実を誤認したものということはできない。この点の所論は採用できない。

次に、所論は、被告人は、本件小切手若しくは小切手金を領得する意思を有しなかつたものであり、少くとも、原判示小切手金全額について領得する意思を有せず、実際も領得しなかつたものである旨主張するのであるが、なるほど、所論列挙の証拠に徴するときは、被告人が、かつて前示会社に勤務中、自己の職務上保管していた同会社の金員を、多数回にわたつて自己の用途に費消していたような関係から、原判示小切手金の大部分を右費消金の穴埋に充当し、その残りを自己の生活費等に費消したものである事実が窺われることは、所論のとおりであるけれども、しかし、原判示小切手金は、原判示のように前示会社が日本国有鉄道に売り渡したオイル代金であるから、被告人において、同会社のため、右オイル代金として正規の入金手続をすることなく、勝手にこれを、過去において自己の費消した金員の穴埋に充当することは、たとえ、その金員そのものは右会社の会計中に入つたとしても、結局自己の用途に費消するものに外ならないから、被告人においてこれを不正に領得したものとみるべきところ、原判決援用の証拠によれば、被告人は、前示小切手金全額を右費消金穴埋や、自己の生活費等の自己の用途に費消したものであることが認めえられるのであるから、被告人は、右小切手金全額につき不正領得の意思を有し、且つ、これを不正に領得したものというべきであつて、この点の所論もまた採用に値しない。

これを要するに、原判決の判示事実は、すべてその挙示する証拠によつて優にこれを肯認することができ、記録を精査し、当審における事実取調の結果をもそう合して、検討考察してみても、原判決に、所論のような判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認ないし法令適用の誤の存することは認められないから、論旨はすべて理由がない。

註 本件破棄は量刑不当

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